連載小説 『チョコレート中毒』 ー 第B章 ー

FREEDOM BOOKS

ー 第B章 ー

その日
Bは朝早くから農場で働いていた

ジャガイモの収穫期で忙しいこの時期には
いつも数人のアルバイトたちも一緒に働く

人手が足りず
旅先のアメリカで出会った日本人も
手伝いに来てくれている

食べることが大好きで
ガッチリした体型のBは
ジャガイモが詰まった重い袋も
軽々と持ち上げる

慣れないその重さに悲鳴をあげている
日本人やアルバイトたちの様子を
暖かい眼差しで見守りながら
何度も手を貸している

このカナダの雄大な自然のなかで
おおらかに育ったBは
まっすぐに成長したような
素朴で欲のない
きれいな心の持ち主だ

着るものにこだわらず
髭も伸び放題のBは
世間の流行なんかとは
全く無関係な感じで
いつも自然体で生きている

見た目を気にしないBは
男友達は多いが
女にはほとんど縁がない

女を知らないわけではないが
さほど女に興味がない……
といったようにも見える

Bは3人きょうだいの長男で
末っ子の弟夫婦たちと一緒に
両親の農場を手伝っている

真ん中の妹は
今はアメリカに住んでいる

収穫期の合間に旅にでることが
Bの最大の楽しみだ

近ごろは農場にある
祖先が残した
100年以上前に建てられた
古い壊れた家の
修復に夢中になっている

だが……

30歳を過ぎた今でも
まだ自分が本当にやりたいことが
見つかっていないのが悩みだ……

今日は
収穫したばかりの
新鮮なジャガイモを届けるために
車で1時間ほど離れた街へと向かった

手伝ってくれている日本人と一緒に
配達先の一つの日本食レストランで
夕食を食べることにしている

農場のある小さな田舎町には
日本食レストランなんてない
食べることが大好きなBは
朝から楽しみでしかたなかった

すべての配達を終えて——

レストランに入り
テーブルにつく

一人の日本人ウェイトレスが
オーダーを聞きにやってくる

見慣れないメニューに
釘付けになっていたBは顔をあげる

そして

そのウェイトレイスの笑顔に
また
釘付けになる——

すべての慣れないことに
ぼーぜんとした様子の不器用なB……

それを見かねた
一緒に来ていた日本人が
Bの分のオーダーもすることになる……

オーダーを受けたウェイトレスが
テーブルから厨房のほうへと姿を消す——

その後ろ姿を見つめていた
Bの一言に日本人は驚く


——「ボクのワイフを見つけた」——


日本人は冗談だと思ったが
Bは真剣そのものだった……

ワーキングホリデーにきて
まだ間もないという
そのウェイトレスは
このレストランで働きながら
語学学校に通っている——と
日本人がBのかわりに聞いてくれた

他にもいろいろ聞いてくれる——

最近やっと日常会話程度の英語なら
スムーズにやりとりができるように
なってきたということ

カナダがとても気に入っていること

それと

その日本人と同じ出身地だということ

日本人どうしの
日本語でのやりとりの間——

言葉の理解できないBは
それでもうれしそうに
ニコニコとあいづちをうつように
聞いている



❤︎

次の週の配達後も
また二人は
日本食レストランで食事した——

こうして二人は配達のたびに
その日本食レストランで食事した——

じゃがいもの収穫期が
そろそろ終わろうという頃になって——

Bはありったけの勇気を出して
ウェイトレスを農場に招待した

それから

ウェイトレスは
毎週の休みの日を
農場で過ごすようになっていった

ウェイトレスは
Bには興味がなかったが
雄大な自然のなかにある
農場には興味があった

だから……

農場から街へと
送ってもらった別れ際に
はじめてBに告白された時には
キョトンとした表情をしていた——

その後もウェイトレスは
休みの日には農場を訪れた

雄大な自然のなかで
のびのびと過ごせる時間は
かけがえのない体験だった

Bは
時に真剣に
時に冗談をまじえて
まっすぐに愛を伝えつづけた

けれども……

Bを恋愛対象としてみていない
そのウェイトレスとは
恋愛関係になることはなかった……


ウェイトレスの
カナダでのワーキングホリデーのあいだ


——彼らの良好な友人関係はつづいた——


季節は過ぎ去り……


——Aが日本へ戻る時がきていた——


Aが最後に農場を訪れた日
Bは手に大ケガをしていた
手にまかれた包帯には血がにじんでいた

その最後の日は
運転ができないBにかわって
日本人が街まで送ってくれた

帰国する用意の整っている
自分の部屋に戻ったAは
Bのケガのことがまだ心配だった……


翌日——


最後の勤務を終えて
レストランの裏口から出ると——

Bが
いつもの配達用の車の前に
笑顔で立っていた

手に巻かれた包帯には
今日もまだ血がにじんでいる

AはゆっくりとBのもとへと向かった——

そうして

二人は強く抱きしめ合った——

AはBの腕の中で
心から安心している自分に気づいた……


半年後——

——AはBが修復した
農場の古い家に暮らしていた——


Bは農場のあいている場所に
いくつかのキャビンを建築中だ

二人は
愛するこのカナダの雄大な自然を
もっと多くの人たちとシェアしたい——
と思うようになっていった

旅人たちのためのキャビン建築は
Bを夢中にさせた

朝からの建築作業が一段落した
BのためにAが
暖かいコーヒーを用意している

キッチンカウンターには
Bの大好きなチョコチップクッキーで
満たされたガラスジャーが
いつものように置かれている


Bは
ずっと長い間
世界中を旅して探してきた何かを——

生まれ育ったこの雄大な自然のなかで
見つけることができた——


——最愛の人と夢中になれる何かを——

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