連載小説 『チョコレート中毒』 ー 第D章 ー

FREEDOM BOOKS

その日Dは
土曜日でカフェが忙しく
残業で帰宅が遅かった

家に戻れば
明るいはずの部屋は
真っ暗だった

今日の午後には
カナダからCが
戻ると聞いていた——

Cがまだ戻っていないのか……
それとも
疲れて寝てしまったのだろうか……

そんなことを考えながら
ピックアップトラックを
車庫に入れる

家の中に入ってっも
人の気配はない

リビングの照明をつけ
Cに連絡してみようと
スマホを手にしたとき
テーブルの上にメモが
置かれていることに気づく——

メモだと思ったものは
カナダのものらしき
ポストカードだった

子供の頃に目にした
トーテムポールのような
個性的なデザインの
カードの裏には
ビッシリと文字が並んでいる

Cからのメッセージだった

そこには
・もう一緒には住めない
・会いたくない
・別れたい
ということについての
詳細が書き込まれていた

全身の血液が
異常な反応をするのを
感じる……

あわててCに電話するが
誰も出ない……
何度も電話してみるが
留守電のメッセージが
流れるだけだ

機会的な留守電の
自動音声に対して
メッセージを残す
気になれない……

そうこうしているうちに——

いつもなら家に帰って
真っ先にしているはずのことを
忘れていた……

思い出したように
習慣化した行動をとり
一度自分を
落ち着かせようとする

——キッチンに向かい
冷蔵庫を開け
缶ビールを手にする——

幸福をもたらしてくれる
ゴールドの液体を
己の口を通して
一気に身体に注ぎ込む——

あぁ
この幸せがあるからこそ
今日も一日頑張れた……と
酔いしれる

だが

その幸福は
長続きはしてくれない

Dの精神は
また
さらなる
幸福なひとときを得ようと
次の一杯を求めだす——

こうして
自分自身の精神の求めに
応じつづけてしまう

まるで
奴隷のように………

気がつけば
テーブルの上には
ビールの空き缶だけでは満足できずに
『VODAK』という
ラベルの貼られた
透明なボトルも登場してくる

そうして
気がつけば
知らないうちに
夜は終わり朝が来て
外の世界は
明るくなっている

❤︎

翌日——

ソファーで
目を覚ますと
何も覚えていない……

暫くのあいだ
今がいつで
記憶の最後はいつだったのか
考えを巡らす——

昨日の夜のことを思い出す

Cのメッセージが
書かれていた
ポストカードの
印象的なデザインが
頭の中いっぱいに広がり
思わず飛び起きる

テーブルの上にある
ポストカードを手にして
そこに書かれた文字を
再び確認する

一気に全身が
重たくなるのを感じる
鼓動が激しくなる
変な汗まででてくる——

Dの精神も身体も
すでにアルコールに蝕まれていた

Cが不在のあいだ
誰に止めらることもなく
意識がなくなるまで
酒を飲んでいた

まともな食事もしていなかった

プロのサーファーになりたいと
きたえていた身体なんて
もう全く面影もなかった

1ヶ月後——

Dが仕事で家にいない間に
CはほぼすべてのC自身の荷物を
新しい家に運び終えていた

会って
別れる決意が
ゆらぐことを恐れたCは
Dと直接会うことを断固拒否した

ほぼ酒しか
口にしていないかのような
不摂生な生活をしていたDは
ついに職場で倒れ
病院に搬送されることとなった

——アルコール依存症——

そう
はっきりと医師から告げられた

精神科での治療も同時に始まった

カフェの経営を
まかされるようになってから
サーフィンに行くことも
できなくなってしまったDは
ストレスから
飲酒量が増えてしまった——

それが治療の過程での
カウンセリングによって導き出された
自分自身からの答えだった

酒に変わるストレス解消法——

Dにとってそれは
やはりサーフィンだった

3ヶ月後——

約1ヶ月間入院させられた

そして
約2ヶ月の間
精神科でのカウンセリングを
週に1回
同じ曜日の同じ時刻に
受けさせられた

Dにはこれ以上
カウンセリングを
継続する気などなかった

そんなことよりも
自分にとって
最も効果的なこと

——サーフィンがやりたかった——

4ヶ月後——

軽度うつ病から
アルコール依存症になったとの
診断を受けたDは
暫くのあいだ休職することになった

二十歳の頃
毎週のように泊まりがけで通い
夏休みの間には
住み込みで働かせてもらっていた
ゲストハウスへと向かった

敷地内の新しいゲストハウスの建築を
手伝うことを条件に
また1ヶ月程住み込みで
滞在させてもらえることになった

激しい雨の日以外
ほとんど毎朝
ゲストハウスの真ん前にある海で
サーフィンをした

サーフィンのおかげで
禁酒は全く苦にならなかった——

毎日
ゲストハウスのカフェで
まかないを食べていたせいか
栄養もしっかりとれ
体力も回復していった

半年後——

Dは休職期間後も
カフェには復職しなかった

借りていた一軒家も引き払い
ピックアップトラック1台に
乗る分だけの荷物

それと
大切なサーフボードだけを積み込み
あの海のゲストハウスへと戻った

今度は住み込みではなく
近くに小さなアパートを借りた

敷地内に増築予定の
ゲストハウスの建築や管理を
手伝っていくことになったのだ

禁酒は継続できている——

——夢中になれる
サーフィンがあるから——

サーフィンで適度に疲れ
夜はほとんど何もない部屋で
ぐっすりと眠る

そして
朝は日の出と共に目を覚ます

——アルコールに依存していたDの精神は
再びD自身をとり戻し始めている——

 

 

 

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