〜 清水家の節分の巻 〜
——これは、
まだ竜之助が中学生だったころの話である——
オカルト系ミステリー作家の
父は、とてもとても信心深い。
父に似て竜之助も、とても信心深い。
そして、弟の大虎も、わりと信心深い。
人一倍現実的でクールな母だけは、
さほど信心深くはなかったが……。
そんな信心深い清水家にとって、
節分の日の豆まきは、重要な行事だった。
晩ごはんを食べ終わった清水家——
夜8時になると、父が
神棚にお供えしていた豆の入った
4人分の枡をリビングのテーブルの上に置いた。
すでに、竜之助と大虎は、
鬼のお面を頭につけて待っている。
父 :よーっし、豆まき始めるぞーーー!
竜之介:ハーイ!
大虎 :ハーイ!
母 :ハイハイ
父 :えぇな、今年も一年、
無事幸せに暮らせるように、
しっかり豆まきすんねんで!
竜之介:ハイッ!
大虎 :ハイ!
母 :後で、家の中にまいた豆、食べるから
ちゃんと全部集めてやー
竜之介:ハイッ!
大虎 : 外にまいた豆は?
父 :家の中の悪いもん
外に出すためにまいた豆なんか食って、
病気にでもなったらどーすんねん!
掃除して捨てるんや!
竜之介:えっ!豆に悪いもんついてるってこと?
父 :豆で悪いもんを外に出すんやから…
まぁ…そうとも言えるか……
竜之介:へぇ~
大虎 : ふ~ん
こうして、この年も
清水家の豆まきが始まった——
「鬼は~外~」
リビングの窓から庭の方へと向かって
勢いよく豆をまく4人
「福は~うち~」
今度はうちの中へと勢いよくまく4人
リビングを出て廊下へ
そして玄関から外へも豆はまかれた。
豆をまき終わって
家中の豆を拾い集める4人——
父と母は、
廊下と玄関の方へといった。
竜之助と大虎がリビングの床で
よつんばいになって豆を拾っていると——
窓の外、
庭の方から何やら音が聞こえてくる……
バリバリ バリバリ バリバリ
バリバリ バリバリ バリバリ
竜之介:ん???
大虎 :ん???
顔を見合わせる2人——
窓の近くにいた竜之助が 、
カーテンを開けて
音の聞こえてくる庭の方を見た。
竜之介:!!!
竜之助の表情がギョッとしたかと思うと、
竜之介:ハナコーーーッ!!!
と、叫んで、
窓を開けて庭に飛び出していった——
バリバリ バリバリ バリバリ
バリバリ バリバリ バリバリ
バリバリというあの音のもとは……
犬の花子だった!——
豆は、家の中のあちこちにも庭の方へも
清水家一家4人によって盛大にまかれていた。
特に、リビングの窓に面した
太郎と花子のいる庭の方へと巻かれた豆は……
多かった……。
外に向かって気兼ねなく豆をまける
唯一の場所だったのだから……。
その大量の豆を花子が拾い食いしていた……。
バリボリ バリボリ バリボリ
バリボリ バリボリ バリボリ
と、大きな音をたてながら……。
それに気づいた大虎が叫ぶ——
大虎 :とお~ちゃん、かあ~ちゃん!
父 :なんや~どうしたんや~?
と、言いながら、父がリビングに入ってきた。
後から母も入ってきた。
リビングのカーテンが、
冬の冷たい風に吹かれて大きくなびいている。
母 :さむーーー!!!
何で窓開けっぱなしにしてんの?!
と言って、大虎の顔を見た。
大虎 :だって、ハナコがーーー!
と言って庭の方を指さした。
3人で窓の外を見ると——
そこには、花子の口を、
ムリやりこじ開けようと格闘する
涙目の竜之助がいた——
竜之介:ハナコ!出せ!出すんやー!
口を開けないように
完全に歯を食いしばっている花子——
竜之介:ハナコー!死んだらどうすんねん!
イッテェーーー!!!
ハナコーーー!!!
時折、少し口を開けられそうになっては、
必死で口を閉じようとするハナコの
鋭い歯にあたっては叫んでいる竜之助……
太郎は、その横の方で、
遊んでもらっていると思っているかのように
うれしそうにしっぽをふっている。
父 :オイっ!竜之助、
ハナコ、あの豆食べとったんか?!
竜之介 :うん……
あぁあ……という表情で、父はうなだれた……。
母 :竜之助、もうえぇから、はよ、
ハナコとタロー、玄関にいれ!
竜之介:うん…わかった……。
この節分のあと——
花子の赤い首輪には、しばらくの間、
父が世話になっている寺の和尚に
特別に(かなりの無理を言って)
つくってもらった、
ペット用の小さな祈祷札がつけられていた……。
—— 今日のところは、これでおしまいっ! ——


