アカデミー賞 13部門でノミネート、7部門受賞、話題の3時間の長編作品『オッペンハイマー』、ヘビーな内容であることが簡単に予測できるだけに、いつもみたいに娯楽として気楽な気持ちで観に行くって感じじゃなかった…。正直なところ、気合を入れて観に行った。映画の途中の一番いいとこで、トイレに行きたくなったらどうしよーーーっていう心配もあった…。──けど、そんな心配はまったく必要なかった。結果、アッという間の3時間だった。
映画のテーマに『原爆』が関係してくると…、日本人としてはやっぱりいろいろな考えが浮かんできてしまう…。この映画で語られる『原子爆弾』はアメリカ側から見たもので、日本での『原子爆弾』の扱われかたとは、やっぱり根本的に違うなぁ…と思った。
もうずいぶん前のことになるけど…、映画の舞台でもあるニューメキシコ州のロスアラモスを訪れたことがある。アメリカ南西部の乾燥した大地が広がる片田舎、ロスアラモス。そこには、『BRADBURY SCIENCE MUSEUM』というミュージアムがあって、当時現地でお世話になっていていた人が、連れて行ってくれたことがあった。『日本人=世界で唯一原子爆弾を落とされた国から来た=原子爆弾に興味がある』という理由で…。
ミュージアムのホームページを参照してもらえるとわかりやすいのだけど…、原子爆弾関連の展示は、イエローやブルーのカラフルな色であふれかえっていて、そこにはポップなイメージの空間が広がっていた。日本での『原爆:原子爆弾』のイメージとは真逆のイメージの空間にかなりのショックを受けてしまったことを今でも鮮明におぼえている。
今回の映画『オッペンハイマー』を観て、原子爆弾の描かれ方に物足りなさを感じて、一種の拒否反応のような感覚を覚えた人たちと同じような気持ちだったかもしれない…「何で…こんな軽い感じにできるの…」というような……。
そして、今でも鮮明に覚えていることがもう一つある。
そのカラフルでポップな空間の一画に展示されていたとても小さな1枚の紙切れのことを…。それは、原爆投下前にまかれたビラの1枚だった。そこには、これから原子爆弾が投下される予定なので、この場所から避難するようにという内容の警告メッセージが印刷されていた。あの時、「原子爆弾のことなんて何も知らないような人たちに…あんな恐ろしい破壊力の兵器があるなんて想像すらできなかったはず……」という考えが自然と浮かんできた。もちろん、実際に使用されるまで誰にも想像することなんてできなかっただろうけど……。その日から数日はかなり暗い気持ちで過ごすことになったのは言うまでもなかった……そして、日本人の一人として、現地の人たちといろんな話をした…。
日本に戻ってきてから、アメリカでの体験を自分のまわりのいろんな人たちに話した。だけど…本当に興味を持って聞いてくれたのはたった1人だけだった…。ほとんどの人が無関心か原爆の話なんてあまりしたくないって感じだった……。
それからまもなくして訪れたフランスのパリ市庁舎で、小規模ながら『原爆展』が開催されていたところに偶然出くわした。道路沿いに面したパリ市庁舎の横側の入り口から入場すると、歴史を感じさせる重厚だけど、さほど広くはないワンフロアーのコンパクトとも言えるスペースに、アメリカ側の『原子爆弾』ではなく、日本にとっての『原爆』としてのイメージがしっかりと表現されていた。そこにあった展示物は、広島平和記念資料館や長崎原爆資料館に行ったことがなく、原爆について深く知らなかった日本人のわたしにとって、予想以上にインパクトのあるものだった。
入り口を入ってすぐに数人が座れる大きなテーブルと椅子があって、原爆関連の数種類の漫画が読めるスペースがあった。そこで、食い入るように『はだしのゲン』を読んでいたパリジェンヌらしき女の子の熱心な眼差しが…今でも忘れられない……。『はだしのゲン』のことは、知っていたけど、読んだことがなかった…というより、読みたいと思うほど興味がなかった…という方が正直なところだった…。『夕凪の街 桜の国』という漫画については、その時初めて知った。帰国後すぐに両方の漫画を買って、『はだしのゲン』全10巻は一気読みした。それぐらい力強くて濃い内容で夢中で読める漫画だった。数年後一部の教育機関で『はだしのゲン』の内容が問題ありとされていることを知って、なんで…?と疑問に感じた記憶がある…。最近になって、広島市教育委員会が平和教材から削除するということへの反対署名運動のメールが送られてきたことで、再び、なんで…?とちょっとショックだった。どんな戦争も綺麗事だけでは語れないのに…と思ってしまう…。
入り口からスペースの奥の方へ進んでいくと、被曝された人たちの衣服や生活用品、遺品等が展示されていた。生々しくて息苦しさを感じてしまうほどだった…。さらに進むと、被爆者の人たちが自分の原爆体験を描いた絵が展示されていた。描かれた絵と作者自身のその絵についての説明内容とに、衝撃を受けて暫くその前から動けなくなってしまった…。警備員のような人が近くにいるにも関わらず、溢れ出てくる涙を流したままの状態でそのまま絵の前で立ちすくんでしまっていた…。
わたしがあの時見て衝撃を受けた『原爆の絵』は、同じ資料なのかどうかまでは不確かなのだけど、『広島平和記念資料館』平和データベースのウェブサイトでも見ることができると最近になって知った。
映画『オッペンハイマー』を観て──
海外出張が多かったあの頃、暫くの期間、出張のたびに『原爆の絵 ヒロシマを伝える:図録』という本(2カ国語表記:日本語/英語)をお土産として持って行っていた記憶が甦ってきた。『原子爆弾』としてではなく、『原爆』というその被害の恐ろしさについて知ってほしいと思った気持ちを……。
まだ若かったあの頃のわたしは、原爆を投下させたアメリカ大統領トルーマンや開発者オッペンハイマーたちに対して、そしてアインシュタインにまでも、かなりの嫌悪感を抱いてしまうぐらい無知で繊細だった…。気づけば…あれから20年ほどの時が経過してしまっただろうか……。映画を観ても、主人公オッペンハイマーや、ドイツの核兵器開発への危険視からのアインシュタインたちの行動についても、歳のせいか…その後の人生経験のせいか…それなりに冷静にあらゆる人の立場で考慮できるようになってきてはいる……。
日本が真珠湾攻撃を仕掛けるような無謀なことをやって、わざわざ自分たちから参戦したのだから……。そして、この攻撃の発案者と言われている山本五十六氏自身は、アメリカと戦争を始めることに最後まで反対していたことは今では知る人ぞ知る事実だ……。これに関連した日本の歴史については、また別の機会にふれてみたいと思う……。
同じような失敗をまた繰り返さないように…歴史の一部だけを見て判断せず、全体を見て考えられるようになっていきたい……とつくづく思ってしまう…今日この頃の不安定な世界情勢に目が離せない日々が…残念ながら、今も続いている……。
☞ 『BRADBURY SCIENCE MUSEUM』https://about.lanl.gov/bradbury/visit/
原爆投下前にまかれたビラについては、現在も展示されているかどうかまでは未確認のため不明。
☞『100 Suns』
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『BRADBURY SCIENCE MUSEUM』を訪れた際にミュージアムショップで購入した写真集。映画『 オッペンハイマー』の原子爆弾実験シーンのような写真が掲載されている。
小学校高学年以上の学生さんたちに、もちろん大人のみなさまにも、ぜひ一度読んでみてほしい漫画。
☞『原爆の絵 ヒロシマを伝える:図録』(2カ国語表記:日本語/英語)
日本の人たち、インバウンドで日本を訪れている人たちはもちろん、世界中の人たちに一度は見てみてほしいと思う一冊。わたし個人的には海外の方へのお土産としてもおススメです☺︎
☞『広島平和記念資料館』平和データベース:https://hpmm-db.jp
By Komame


